梅川、忠兵衞、主人公二人の通り名も有名な、近松門左衛門作の人形浄瑠璃『冥途の飛脚』は、実話を題材にして創作された上中下3巻の世話物です。
1711年(正徳元年)、大坂 竹本座で初演されました。
現在では下巻の「新口村」は、後世の改作『恋飛脚大和往来』を用いて単独で上演されることも多く、本作では上中二巻を近松の原作に、下巻を『恋飛脚大和往来』に拠って、精巧な編集で約1時間半に凝縮しています。
淡路町の段
忠兵衛は大坂淡路町の飛脚問屋・亀屋の跡継ぎ養子。新町の遊女梅川と惚れあった仲である。梅川が他の客に身請けされそうになったため、友人の八右衛門の五十両を無断で借りて身請けする手付金にしてしまっていた。
問い詰められた忠兵衛は、八右衛門の友情にすがって母を欺きその場を切り抜ける。そこに届いた公金三百両を届ける用事を頼まれた忠兵衛は、梅川のことが気になって届け先ではなく新町に足を向ける(羽織落し)。
封印切の段
新川の越後屋では、梅川が忠兵衛を待ち焦がれている。そこに八右衛門がやって来て、遊女たちに先ほどの忠兵衛の一件を話し、廓に彼を近づけるなと言う。
忠兵衛は門口でこの話を聞いてかっとなり、持っていた公金の封を切って五十両を八右衛門に投げつけ(封印切)、さらには養子に来た時の持参金と偽って、梅川の身請けの後金に使ってしまう。
身請けした梅川に全てを打ち明けた忠兵衛は、二人一緒に逃げようと、忠兵衛の生まれ故郷の大和国新口村に向かう。
新口村の段(「恋飛脚大和往来」より)
新口村まで辿り着いた忠兵衛と梅川だが、村には既に詮議の手がまわっている。
幼なじみの忠三郎の家に身を寄せた二人が雪の降る外を窺うと、忠兵衛の父・孫右衛門が杖をついて通りかかり、足をすべらせ転んでしまう。梅川はたまらず外に飛び出して介抱し、やがて孫右衛門はすべてを悟る。親の情を語る孫右衛門に梅川は忠兵衛を会わせようとするのだが…